説明しながら現地スタッフに問題のない食事を提供する。



 個人によって様々でしょうが、海外旅行の楽しみを問うと、「異国に身を置き、日本と異なる文化や慣習を肌で感じ、見聞を拡げる事」と答える人も多いと思います。確かに異文化とは興味深いものがありますが、理解していないと思いがけないトラブルにも繋がることもあります。

 緊急援助隊は医療という分野で現地の人々と関わっていきますが、そこには通訳など現地スタッフの協力が不可欠です。当然、生活のパターンは日本側が主導的立場になりますが、彼らが持つ慣習を組み込む事は重要であり、特に彼らの生活の根底にある宗教上の儀礼や価値観を日本的な業務遂行感覚により排除する事は文化・宗教を否定する事に繋がります。また、関連して日本のレトルト食品などの食事の場合には必ず現地の食文化を確認し、成分を含めて説明した上で提供するようにしています。もし、禁忌となる食物を口にした場合、彼らに計り知れない苦痛を与えることになってしまいます。




 医療面でも文化に配慮した対応が必要な場合もあります。ある宗教では戒律により女性が男性医師の診察を拒んだり、男女混合の待合所を嫌い診療所へ訪れもしない事もありました。制限により女性が男性に比較し不利益を被ることは多々ある事例です。このような場合、男性家族同伴で診察を受けさせたり、性別で分けた診察室を設けたりと対応しましたが、先人の体験した深刻な事例もあります。

 ある国で右手の怪我が悪化し、切断しないと生命に危険が及ぶと医療的に判断された老人が「手を切られては昇天できない。このまま死んでも良い」と治療を拒否したそうです。なぜなら、宗教上、盗人は右手を切断するとされ、死後も罪人の証しとして地獄へ落ち、「神」の元へは行けないと信じていたからです。結局、老人の意向を聞き、切断しないで経過を見たようですが…。

 日本人にとって宗教的儀礼や戒律は馴染みが薄いものですが、国によっては個人の価値観や人生にまで影響を与える重要な要因です。それらを否定したり、我々の価値観を強要することは絶対にしてはならない事です。

 緊急支援といっても我々は彼らの文化の中では客人であり、尊ぶべき立場にあるからです。まずは相手の文化に敬意を払うことから人としての繋がりができてくると思っています。ただ、時間の感覚が違うことには閉口すること然り。郷に入れば郷に従えとは言うものの。それと制限を受け淑やかそうな女性達ですが、よく旦那衆が怒られているのは日本と同じ。

青木 正志(あおき・まさし)
 1962年、茨城県出身。20年間、茨城県内の救急病院にて救急医療に従事。阪神大震災から災害医療に関わり、1997年国際緊急援助隊に登録後、ニカラグア、トルコ、インド、イラン、スリランカなどで災害緊急医療活動。その中で在職のままの国際貢献、災害対応に限界を感じ、2001年に退職しNGO職員としてアフガニスタンにおいて約1年半にわたり支援活動を続ける。
 現在、日本医療救援機構(MeRU)専属職員として国内外の災害に対応すると共に、防災・災害医療教育を積極的に行いながら「桜が丘メルクリニック」看護師長として地域医療にも携わる。


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